Hamilton -ミュージカル界にも新たな時代-
高校で教鞭を取っていた時、授業では、洋楽や洋画、YouTubeの動画を多用していた。もちろん教科書に載っていることもしっかり教えたが、breakとして音楽や映像作品を利用することで、生徒が【英語嫌い】を少しでも克服できるように…と工夫していたつもりだ。
英語が嫌いという生徒は、英語を一教科としてしか見ていない。でも、そうじゃなくて、英語は【言語】であり、英語を使えることで世界観が180度変わる、ということを伝えたかったのだ。【英語を学ぶ楽しさ】を伝えたかったのだ。そのために、私ができることは、自分が英語に興味を持つきっかけにもなった、【洋楽】や【洋画】を使うことだと思った。
今日は、そんな高校教員時代に生徒たちにも観せた、YouTubeの動画を伝えたい。
2015年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル【Hamilton(ハミルトン)】の、2016年のTony Awards(トニー賞・ミュージカル界のアカデミー賞)授賞式で行われた演目だ。
このミュージカルは、アメリカ建国の父の1人、Alexander Hamiltonの生涯を題材にした作品だ。実は、この2016年のTony Awardsにて、史上最多の16ノミネートを叩き出したバケモノである。
では、何故この作品がそこまで評価されたのか?何故私が授業で取り扱ったのか?
まずは、その動画を観て欲しい。英語字幕は右下のボタンで設定できるが、今回は英語を紹介したいわけではないし、英語が速いし内容も歴史的だから、理解するのにはかなり難しいと思う。単純に【映像と音楽】に集中して楽しんでくれればそれで良い。ミュージカル部分は2:20〜だ。
70th Annual Tony Awards 'Hamilton'
どう感じただろうか?私は、この映像を最初に観た時、鳥肌が立った。Tony Awardsの映像をYouTubeで色々観てきたが、これを観て、【新たな時代】が来たことを確信させられたからだ。
この作品が評価されたのにはいくつか理由がある。
1. HIP-HOPを取り入れたこと
従来のミュージカルと言えば、classicやpopの音楽にのせて歌うイメージだっただろう。だが、このミュージカルは全編を通してhip-hopで送られている。
主演のリン=マニュエル・ミランダ…彼がこのミュージカルの音楽から脚本、演出までを手掛けた張本人だ。 彼はAlexander Hamiltonの伝記を読み、そこからハミルトンのrapを書き始めたらしい。
歴史物という堅くなりがちなテーマを用いながら、hip-hopで組み立てるというところが実に面白い。奇抜な発想だ。これが、New Yorkerたちに受けた1番の要因だったのではないかと言われている。
2. 人種や性別を超越したキャスティング
そう、これは、史実を基にした作品だ。しかし、アフリカ系やラテン系のアメリカ人、女性が兵士役を演じていたことに気づいただろうか?
アメリカ建国の父の話…ということは、その時代に兵士として活躍していたのはもちろん白人だ。
しかし、このミュージカルでは、主要キャストのほとんどが白人ではない。
これについて、ミランダは次のように語っている。
"Our cast looks like America looks now, and that's cartainly intentional."(私たちキャストは現在のアメリカのように見えるだろう。もちろん、それは意図的である。)
"We're telling the story of old, dead white men but we're using actors of color, and that makes the story more immediate and more accessible to a contemporary audience."(私たちは過去の、亡くなった白人の話を伝えているが、有色人種の俳優を起用している。そのことによって、物語が現代のオーディエンスに対してより近くて親しみやすいものになっているのだ。)
“Hamilton (Musical).” Wikipedia, Wikimedia Foundation, 20 Oct. 2019, https://en.wikipedia.org/wiki/Hamilton_(musical)#cite_note-150.
「現在のアメリカのように見える」…まさにその通りだと思う。日本にいるとあまり感じることがないかもしれないが、世界は今、民族が交わり、共存するのが当たり前の時代にきている。アメリカはその影響を受けた最たる国家だろう。だから、歴史物を、あえて現代的なキャスティングと作り上げることで、観ている人に近しいものだという印象を与えているのは斬新だ。
このミュージカルが初演された2015年と言えば、大統領選挙1年前…現アメリカ合衆国大統領である、ドナルド・トランプ氏が出馬を表明した頃だ。
トランプ氏の過激な差別発言や思想については、全世界の人々が知っているだろう。結局、彼が選挙で当選し、2017年から大統領の座につくことにはなるのだが、このTony Awards授賞式の頃は、まさに全世界がdiscrimination(差別)について深く考えさせられる時だったのだ。
トランプ氏の過激な政策を批判し、【人種や性別に対する差別を撤廃すべきだ】という動きが広がりつつある中で、このミュージカルはまさに希望の光だった。結果的に、トランプ氏やその支持者へのアンチテーゼを掲げるような存在となったのだ。
この2点を踏まえて、今一度、映像を観て欲しい。きっとまた違った感覚を得られるはずだ。
そして、差別について、今一度、考えて欲しい。生まれ持った肌の色や民族性、性別といったアイデンティティの1つを否定されることについて、あなたはどう考える?